2025年7月。二度目の再会。
予約を入れたときは、どこか胸がざわついていた。──前回の余韻がまだ残っていたからだろう。
けれど、実際に部屋で彼女を見た瞬間、不思議と冷静だった。
「久しぶり。。6月も沖縄に来たんだけどね」
そう切り出すと、彼女は首をかしげる。
「えっ、6月も来たんですか?」
とぼけるような返答に、思わずイラッとする。
「そうなんだよ」と口では答えながらも、心の中では別の声が響いていた。
──6月に名探偵への口コミアップ後、定期的に“キテネ”何度も送ってきてただろう。
しかも予約が入った時のアカウントチェックはMちゃんのルーチーン。
名探偵への口コミやお礼日記でアニマル診断に触れた直後、君もやっていた。
なのに、なぜ自分の診断結果がWEBに出てこないと思ったのか。不思議でならない。
まあいい。こういう性格なんだろう。
そう思い直して彼女を観察する。
スリッパは揃えない。水の入ったコップを無造作に差し出す。
「下着は?」と聞けば、平然と「私はつけないんです」とどや顔。
前回は気づかなかった「がさつさ」が、仕草の端々に見え隠れしていた。
コップに口をつけながら、こちらから話を振る。
「アニマル診断の結果が“キリン”って見て、なんで上から目線なのか納得したんだ。だから今日は来なくてもいいかなって思ったんだけどね」
正直、性格も体の相性もそれほど良くない。
それなのに、なぜ自分は彼女に惹かれたのか。
あの時は精神的にも肉体的にも疲れていたからか──。
ただ、それを確かめたくて今日、再びここに来たのだ。
そして洗い場を経て、自然とベッドへ。
痩せたことで美人さは増していたが、その分、以前にあった“かわいさ”は薄れていた。
正直、あまり興奮はしなかった。
6月に自分が選ばれなかったことを、きっと彼女は気にしているだろうと感じ、「出勤してなかったので予約出来なかった。」と、ベッドの上で説明してやった。
すると、彼女は俺のを咥えたまま、満面の笑みを浮かべた。
……まあ、俺が「説明中はしゃべったらだめ。しゃべったらやめる」と言っていたからだろう。
その瞬間、自分の中のSっ気が顔を出し、ようやく興奮が高まってきた。
「説明はいったんここまで。残りは終わったら話してあげる」
そう告げ、そのまま挿入する。
だが、前回のように“本当の彼女”が顔を出すことはなかった。
気持ちも盛り上がらず、早めに終わらせた。
事後、「今日は集中できなかった」と問われれば、「うん」とだけ返せばよいだろう。
しかし彼女の口から出たのは──
「今日一番濡れましたよ」
フォローのつもりなのだろう。
けれど“今日一番”という言葉が引っかかった。
──こういう店で、人と比べられるのはやっぱり微妙だ。
行為のあと、彼女がそわそわしている。
続きを聞きたそうな様子だったので、こう説明してやった。
「上から目線というのは、見下す感じではなく、母親が子供に接するような雰囲気だった。嫌ではなかったが、先読みする話し方にコントロールされている感じがして──だから『黙っといて』。逆に俺のSっ気が刺激され、興奮したんだ。そして、あなたのようにユニークな存在にはこれまで会ったことがない。大谷のような、唯一無二の癒しパワーがあるのだろう。」
さらに「痩せてシュッとした顔になったけど、かわいさはなくなった」と伝えると、彼女は「他の客からは評判がいい」「胸は痩せない」「顔から痩せる」と返してきた。
そんな他人の評価はどうでもいい。
──オレの好きはオレが決める。
そう思いつつも、痩せて少し心配になった彼女に、手元にあったJALでもらった飴玉を差し出した。
「お菓子あげるの、3人目だから」
そう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべ、即座に食べ始めた。
まあ、お礼日記にでも載せれば面白いし文字数稼ぎになるだろうと思い、最後のひとつだけは食べるのを制した。
「明日はどうするんですか?」
「またここに来るよ。名探偵と遊ぶ予定」
そう答えると、彼女は軽く笑いながら言った。
「名探偵、今日は当欠でしたよ」
……なぜ、こんなことを平気で言えるんだろう。
それを聞かされて誰が喜ぶというのだろうか。
その瞬間、やはり根っこの部分で合わないと感じた。
「元気ですね!また利用して頂き、ありがとうございます」だろ、、、
せめて「実は今日当欠で。。どうしたのかなぁ?明日会えるといいですね」と言ってくれればと思っていた。
そこへフロントからのコール。Mちゃんに「あと何分?」──「10分です」という声。
だが聞いた直後に部屋のタイマーが鳴る。さらにしばらくして、不自然に鳴り続けるコール音。こんな状況は初めてだ。
受話器を取った彼女に「何かあったの?」と尋ねると、彼女は答えた。
「時間です」
恐らくさっきのタイマーの時が最終のコールだったのだろう。
腰を上げると、次回の話になった。
「マイル貯まるの11月ぐらいかな。JALのガチャ候補に沖縄も入れとくよ」
そう言うと、彼女はスリッパを揃え
「11月は私の誕生月なんです。沖縄に来て」
「そう言われても、ガチャなんで行先はJALの気分次第…」
「あの子の所に行くのやめて沖縄に…」
「あの子? あみちゃん? のどかちゃん?」
「そうじゃなくて…」
──誕生月の私に会いに来て、ではなく「沖縄に来て」と言う。
そして、その「あの子」とは……。
部屋を出て、踊り場でのキス。
感情のこもった口づけに、逆に心が揺さぶられた。
別れ際、冗談めかして言った。
「名探偵。前回のお礼日記に“多分、後3時間話せる”って書いてあったから、明日は180分で予約したのに残念」
すると彼女は真顔になり、言葉を失った。
「あっ、冗談。Mちゃんと同じ70分!」
階段を降りると、黒服の機嫌は明らかに悪い。
目も合わせず、棒読みで「靴はクロックスですか」。
不機嫌になるくらいなら、最初の説明にコールの回数も加えればいいのに──そう思った。
明日の予約をキャンセルし、この店に二度と来ない選択もあった。
だが、Mちゃんの不可解な行動と、名探偵への迷惑を考えると、自然と心にブレーキがかかった。
「クロックスです。明日も来ますので、よろしくお願いします」
そう告げて、夜の道へ歩き出した。
──まだ、この答えを確かめたかったからだ。
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