Mちゃんとの物語 (5:口コミメッセージと応酬)

翌朝。始発の便に乗るため、足早に空港へ向かった。
シャッターを下ろした売店、まばらな乗客。
──だがむしろ好都合だ。こういう静かな時間こそ、口コミを書くにはもってこいである。

昨夜の出来事を思い返す。

終了のコールやタイマーを、平気でスルーした。
名探偵のことを、あろうことかお礼日記にまで書いた。
「私の見た目が好みではない」などと、客に言うはずのないきつい言葉を投げかけてきた。
そして、やたらとエクボをアピールしてきた。
──その一方で、オレが沖縄観光を満喫したことには一切触れず、自分のことばかり。

……これらを「オレのことが好きだから」と仮定すれば、不思議とつじつまが合ってしまう。
だが冷静になれば、お礼日記など所詮は“演出”だ。
「少し大げさに書いただけです」と言われれば、それで終わる。

ならば、こちらも同じ土俵で打って出よう。
口コミという舞台に、自分なりの“大げさ”を並べて。

──沖縄行きが決まった瞬間、真っ先に出勤を確認したこと。
──出勤が上がった瞬間に秒で予約したこと。
──痩せて美人度が増したが、個人的には少し痩せすぎだと感じたこと。
──気遣いや心配り、そのホスピタリティに感服したこと。
──髪は天使の輪どころか、まるごと天使そのもの――サラッサラ。

ふふ。主語を彼女に寄せた“ほめ殺し”。駒は置いた。

これでどう応じてくるか──その出方を、じっくり拝見させてもらおう。

……ところが、その瞬間ひとつの疑問が頭をかすめた。

──沖縄行きが決まった瞬間、真っ先に出勤を確認したこと。

確かに、JALの「どこかにマイル」で行き先が沖縄に決まったとき、オレは真っ先に彼女の出勤表を開いた。
けれど、表示されていたのは移動日と重なるスケジュール。どうしても合わない。

しかたなく、以前に入った子へ「ミタヨ」を送り、周知のようにハンドルネームに「この日、沖縄!」と匂わせて回った。
──その流れで、一応、Mちゃんにも「ミタヨ」を飛ばした。

するとどうだろう。
まるで応えるかのように、即座に追加出勤がアップされたのだ。
その記憶が、今になって鮮やかによみがえる。

しかも、それだけでは終わらなかった。
予約を入れた翌日には、本来三週間に一度のはずの美容院を、わざわざ二週間に繰り上げて訪れている。
そして続けざまに更新された日記には、妙にノリの良い調子で言葉が踊っていた。

──まるで、「待ってた」と言わんばかりに。

──気のせいではない。
すべてが小さなやり取りの糸で繋がっている。
どんどん核心に近づいているような気がした。

だが、その核心が「真実」なのか「罠」なのか──それだけは、まだ分からない。

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