じゃがポックル

最近、北海道のお土産を配っていて、けっこう喜ばれた。

「これ、かさばったけど買ってきて良かったな」

と思ったのが、じゃがポックル。

これを見ると、昔のことを思い出す。

今では普通に買えるけど、昔はかなり希少で、プレミアがつくほどだった。

当時、大分県から東京へ出稼ぎに出たばかりの私は、北海道支店長から一箱もらった。

「ぽっくる?」

なんだ、そのネーミングは!?

ふざけてるのかと思った。

ところが、周りの席の人に、

「これ、お客さんからもらったんだけど、いる?」

と言うと、

「くれくれ!」

「どうやって手に入れたの?」

「うれしぃ~!」

と、大騒ぎ。

……なんか、じゃがポックルに嫉妬してしまった。

こんなに人を喜ばせるとは。

釣ったイカを配ったときに、イカの人気に嫉妬した以来だ。

周りがあまりにも嬉しそうにするので、私もこの食べ物に、興味津々となってしまった。

そして、大量の「じゃがポックル」を各部署に配っている北海道支店長にも、俄然、興味が湧いてきた。


当時、私は半導体メーカーの生産管理システムを構築していた。

ところが、リーマンショックの前にあったサブプライムショックの段階で契約打ち切り。

大分という工業地方では、仕事もなくなり、東京へ出稼ぎに行くことになった。

そこで「生産管理システムのエキスパート」の私に舞い込んできた仕事が、何故かゼネコンの社内ポータルサイト(プロジェクトサイトといったグループウェア含む)の構築だった。

当時のお客さんは、東京スカイツリーや羽田空港の新滑走路などのJV(ジョイントベンチャー)にも参加していた。

社員は4,000人規模。

社内ポータルのトップページには、管理人として私の連絡先を載せていた。

すると、そこに食いついてきたのが北海道支店長だった。

私より少し年上の方で、

「ねえねえ、これって社内に向けて発信する支店長ブログとかできるの?」

と聞いてくる。

どうやら、北海道という閉塞感のある地域で、知的好奇心を持て余しているらしい。

「できますよ。ちゃちゃっと枠を作って権限渡すんで、この手順書を見ながら何か投稿してみてください。トップページの目立つところにバナーも貼っときますんで。毛ガニでもメロンでも、好きなアイコン拾ってきてください」

「そうすると、何を書けばいいんですかね?」

「好きに書けばいいですよ」

「それが分からないんで……」

「じゃあ、帰りに『るるぶ』でも見て、私が知りたいこととかリクエストしますよ」

「分かった」

そして会社の雑費で『るるぶ』を購入。

仕事ですから。

……仕事といいつつ、翌日、読んでいると、

「あなたが○○さん……」

「???」

「どなた様ですか?」

「昨日やり取りした北海道の者です(笑)」

おいおい。

行動力ありすぎだろ。

こっちは、まだ『るるぶ』で札幌を抜け出してないぞ。

じゃあ、とりあえず会議室を取ります、ということになった。

そして、さしで会議室へ。

そこで、じゃがポックルをもらった。

「白い恋人が良かったな……」

と思いつつ、話を聞いていると、北海道支店では知的好奇心が満たされず、かなりストレスがたまっているらしい。

そこで二人で、どういう情報発信をすればうけるのかを考える。

お土産。

Excelの使いこなし。

ITの考え方。

開発者側の視点と、利用者側の視点。

意外と気が合う。

議論(雑談)は夜まで続いた。

すると、

「新橋に場所を移しませんか? 蕎麦でも食べに行きましょう」

「蕎麦???」

富士そばしか食べたことがない私は、薄毛の同級生の営業(大分出身)に電話した。

「今日、初めて会った客に『蕎麦食べに行こう』って誘われたんだけど、なんで蕎麦なん? 北海道の支店長なんだけど」

すると、

「それ、やばいよ。絶対ヤバいやつ」

「なにが?」

「新橋で蕎麦って……」

「俺、コロッケそば好きなんだけど、やっぱりやばい? 上品にエビ天そばとかにしたほうがいいんかな。カニクリームコロッケとかあるかな?」

すると、

「いくら持ってる?」

「最近パスモっての使い始めたから、現金は数万円くらい? カードもあるけど」

「良かった」

「なんで?」

「お前、東京で蕎麦屋に行くと1万円はかかるから」

「またまた。何言ってんの?」

「まあ、行けば分かる。こっちで交際費申請しとくから、全部出せ。接待しろ。仕事もらってこい」

「妙に波動が合うから、仕事はもらえると思うけど……」

「蕎麦ぐらいで交際費申請とか、笑える~~~」

そんな感じで、タクシーで新橋へ向かった。

そして、そこには私の知らない世界があった。

瓶ビール1,200円。

天ぷら3,000円。

3色蕎麦3,800円。

「なんだこれ。桁が一つ違うぞ。」

十四代、一合3,000円。

「なにこれおいしい。お代わり。」

そして会計。

二人で30,000円。

「やば……」

その後は銀座のクラブへ。

客のコーポレートカードなので、いくらだったのかは知らない。

私の支払いはゼロ。

というか、逆に接待されてしまった。

どうやら、その方は、

「コンサルタントを雇って話を聞くより、こいつに直接ノウハウを聞いたほうが早い」

と察したらしい。

それから、その方とは10年以上のお付き合いになった。


今となっては、いい思い出だ。

大分から東京へ出てきて、富士そばしか知らなかった自分。

そして、初コンタクトの翌日に北海道から東京の私のところまで飛び込んできた、あの行動力のある支店長。

そして、その支店長は、その後、執行役員からITへの適性を認められ、IT部門の室長になった。

北海道支店で知的好奇心を持て余していた人が、社内ポータルをきっかけにITに興味を持ち、最後にはITの責任者になったわけだ。

そして私自身も、その出会いから大きな恩恵を受けた。

「支店長ブログ → 室長ブログ」で宣伝してもらい、何か分からないことがあれば、とりあえず「管理人に聞け」という状態。

ポータルサイトの管理人というのは表向き。

実際には、総務、経理、人事、CSR、財務、安全、秘書……いろんな部署から大なり小なりのIT相談が飛んでくる。役員までExcelの使い方を聞いてくる。

キヤノンがプリンタ本体を売った後、インクで稼ぐように、私もポータルサイトを作った後のほうが、いろいろな仕事が増えた。

もはや「管理人」というより、社内ITの総合窓口。

仕事が増えれば、当然、稼ぎも増える。

薄毛の営業も出世して、部長に昇進。

私にも管理職の話が来た。

でも、断った。

客先に行けば、みんなが「○○さん、ちょっと教えて」と寄ってくる。

こっちのほうが、楽しかった。

そして、私が家庭の事情で、どうしても大分に戻らなければならなくなったとき。

わざわざ私の会社に専用回線まで引いてくれた。

大分に戻ってからも遠隔で仕事ができるように、作業環境まで用意してくれたのだ。

しかし、専用回線って、めんどくさっ。

遅いし、TV会議をしても、

いっこく堂の「あれ、声が、遅れて、聞こえてくるよ。」状態。

自社に、「VPNを使って、社内イントラネットへ接続できる仕組み」を開発してもらった。

これがまた、大当たり。

大分に戻るために用意してもらった専用回線がきっかけで、今度は全国の現場事務所から、専用回線なしで高速に社内イントラネットを使える仕組みへと発展してしまった。

今では、じゃがポックルを見るたびに、あの頃を思い出す。

「ぽっくる?」

なんだ、そのネーミングは。

そう思っていた一箱だった。

……人生、何がきっかけになるか分からない。

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