ふと思い返してみると、これまで何人かにお菓子や食べ物を渡したことがある。
基本的に自分から何かを渡すタイプではないので、数えてみると意外と少ない。
今から15年くらい前の話。
取引先の上司が通っていた店があり、最初は担当者と上司、そして私の3人で行っていたのだが、ある時「一人でも飲みに来てよ」と言われるようになった。
東京出張の帰りなどに、たまに立ち寄るようになった。
その頃、東京の同級生で同僚の営業をしていた薄毛の友人に、
「何か気の利いたお土産ない?」
と聞いたところ、
「今なら有楽町の『かずやの煉』がいいよ」
と勧められた。
並ぶのは嫌だなと思いつつも、せっかくなら喜んでもらいたいと思い、30分ほど並んで購入した。
後日、
「どうだった?」
と感想を聞いたら、
「私、抹茶が嫌いなんだよね。犬にあげたけど吐き出してた(笑)」
と返ってきた。
さすがに、
「そこまで言わなくても……」
と思ったのを覚えている。
そこで、
「じゃあ何が好きなん?」
と聞くと、
「ひよこまんじゅう」
との返事。
さらに、
「買ってきてくれるの?」
と聞かれた。
でも、その時は何となく嫌だった。
相手の好みに合わせるのが嫌だったわけではない。
ただ、お土産というより「お使い」を頼まれているような気分になったからだと思う。
今でも、そのやり取りだけは妙にはっきり覚えている。
二人目
ドライフルーツメーカーでイカの干物を作った話をした時のこと。
「食べてみたい」
と言われた。
それならと思い、出来上がった干物を持って行くことにした。
ただ、それだけでは少し味気ない気がしたので、当時ハマっていたお菓子も一緒に添えた。
特別な意味はない。
純粋に「こんなのあるよ」と紹介したかっただけだと思う。
今となっては相手がどんな反応をしたのか細かくは覚えていない。
でも、少なくとも一人目のような強烈な思い出になっていないということは、きっと普通に受け取ってもらえたのだろう。
お菓子そのものより、「食べてみたい」と言われたから持って行った。
そんな自然な流れだった気がする。
三人目
旅行や食べ物の話をしていた時のこと。
「今のUHA味覚糖の社長って本当はチョコ好きで、本社に自前の店があるみたい」
そんな話題になった時、
「食べてみたい」
と言われた。
ちょうど大阪へ行く予定があったので、お土産として買って帰ることにした。
ついでに冷凍庫を圧迫していたイカ焼きそばを保冷剤代わりに添えて渡した。
今考えても、なかなか独特な組み合わせだったと思う。
後日、
「焼きそばの方が美味しかった。また作ったら頂戴!」
と言われた。
せっかく大阪で買ってきたお菓子より、自作のイカ焼きそばの方が評価されたわけだが、不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ嬉しかった。
並んで買ったお菓子より、自分で作ったものを気に入ってもらえた。
社交辞令だったのかもしれない。
それでも、不思議と大阪で買ったお菓子より、その言葉の方が強く記憶に残っている。
四人目
沖縄で会った時だった。
気づいたら、JALでもらった飴を3個渡していた。
別に深い意味があったわけではない。
ただ、痩せたと聞いていたが思っていた以上に痩せていて驚いたので、咄嗟に出た行動だったのだと思う。
後から考えても、
「なんであの時、飴を渡したんだろう?」
と自分でもうまく説明できない。
ただ、その時はそうしたくなった。
後日、
「お菓子をあげた人って、人生で四人目ぐらいかも」
と話したら、
とても嬉しそうな顔をしていた。
その表情が妙に印象に残っている。
飴そのものに価値があったわけではない。
高級なお菓子でもなければ、有名店の限定品でもない。
ただ、思い返してみると、相手に何を渡したかよりも、その時にどんな顔をしていたかの方が記憶に残っている。
五人目
ここ最近の話。
一人目の出来事以来、自分からお菓子や贈り物を渡すことはほとんどなくなった。
そんな中、その人は以前、
「何も持ってこないのも漢気」
みたいなことを言っていた。
もちろん冗談交じりだったのだろうけど、どこかで少し小馬鹿にされたような気もした。
それならと思い、その人が好きそうなジャンルと、ちょうど流行っていたお菓子を渡してみた。
ところが反応は予想外だった。
まさかの全面拒否。
「気持ちは嬉しいんだけどね」
と相手にフォローまでさせてしまった。
お菓子に至っては、
「苦手」
と言われた。
ここまでくると完全に選択ミスである。
「じゃあ返して」
と言ったのだが、
「チャレンジしてみる」
とのこと。
その後、
「やっぱりダメでした」
という結果報告までいただいた。
今になって思えば、あの時ちゃんと返してもらえばよかった気もする。
まあ、そもそも慣れないことはするものじゃない。
何かを渡すたびに何かしらのネタが生まれるあたり、自分にはそういう才能がないのかもしれない。
よく考えたら、これまで渡したものの多くは相手からのリクエストがきっかけだった。
自分の判断だけで選んで渡したのは、案外少ない。
だからこの時は、
「やっぱり向いてないな」
と思った。
六人目
基本、プライベートな話をあまりしないので、自分の中では結構未知な存在だったりする。
そこで思い切って、五人目と同じお菓子を渡してみた。
もちろん、
「嫌いだったら言ってね」
と前置きしたうえで。
すると返ってきたのは、予想外の反応だった。
満面の笑みで、
「これ、あれでしょ? 並ぶやつ」
と言う。
「そうそう。東京駅で中国人と並んだよ。」
と返すと、
「えー、楽しみ〜!ありがとう」
とさらに笑顔。
こちらが驚くくらい喜んでくれた。
今でもあの時の表情はよく覚えている。
それ以来、旅先でお土産を探すこと自体が少し楽しくなった。
結局のところ、記憶に残っているのは渡したお菓子そのものではない。
その時の会話だったり、反応だったり、表情だったりする。
だからこれはお菓子の話を書いているようで、実際には人との関わりの話なのかもしれない。

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